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仙台高等裁判所秋田支部 昭和24年(を)27号 判決

被告人

赤沼金一

主文

原判決を破棄する。

本件を秋田簡易裁判所に差し戻す。

理由

職権で調査すると、原判決は、「被告人は自称安森某なる朝鮮人と共謀の上昭和二十四年三月十七日頃秋田市土崎旭町琴平百二十四番地山本孝輔方座敷六疊間等より同人所有に係る紺色オーバー一着外衣類六点價格合計約二万六千円相当のもの及び現金五百円を窃取したものである。」と認定し、その証拠として被告人の原審公廷における自白と被害者の盜難届を示しているが、被告人は原審公判において原審裁判官から「被告事件について陳述することがあるか」と尋ねられて「別にありません」(記録二〇丁)と答え、「盜んだ現金五百円はどうしたのか」と尋ねられて「そのうち私が三百円とり残りの二百円を私と一緒に盜んだ安森という朝鮮人がとりました。」(記録一一四丁裏)と答えているのである。すなわち、被告人は前記認定事実について一部の自白をしていると解する外ないのにかかわらず、原判決は前記のような証拠の挙示をなしているのであるから、その理由にくいちがいがあるものといわなければならない。

よつて、その余の判断を省略して刑事訴訟法第三百九十七條により原判決を破棄するのである。しかし前記原審における被告人の供述はなお釈明の余地があるばかりでなく原裁判所において取調べた檢察官勤務取扱作成の被告人の供述調書(記録六九丁以下)には「被告人は自称安森某と二人で昭和二十四年三月十七日の晩秋田市旭町の高さ四尺位の板塀のある家に行き安森がその板塀を乘りこえて中に這入り、被告人は外で見張していたが二、三分してその板塀を乘りこえて這入り安森がその家の中からオーバー、ズボン、レインコート等を盜み被告人に投げて寄こした」との供述記載があつて、これによると本件窃盜の事実を認定するについてもその情状住居侵入の点は密接の関係あり、刑の量定の上からもこれを無視することはできないから、原審において訴因追加の問題を檢討し審理を盡す必要があるものとし本件を原裁判所に差戻すこととする。

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